東京地方裁判所 平成元年(特わ)645号 判決 1989年7月31日
本店所在地
東京都港区六本木三丁目八番一八号
三河台ハイツ一一三号室
紀宝地所 有限会社
(右代表者代表取締役 小山田紀一)
本籍
新潟県燕市大字東太田三五八七番地
住居
東京都中野区大和町三丁目三二番三号
会社役員
小山田紀一
昭和三年二月一一日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子、同北村篤出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人紀宝地所有限会社を罰金一七〇〇万円に、被告人小山田紀一を懲役八月にそれぞれ処する。
被告人小山田紀一に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人紀宝地所有限会社(以下、被告会社という。)は、東京都港区六本木三丁目八番一八号三河台ハイツ一一三号室に本店を置き、不動産の売買及びその仲介等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人小山田紀一(以下、被告人小山田という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人小山田は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の販売手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和六〇年四月二二日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八二三万九九四一円で、課税土地譲渡利益金額が一億三一万六〇〇〇円あった(別紙1修正損益計算書及び別紙2脱税額計算書参照)のにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同六一年三月三一日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六三万九九四一円で、課税土地譲渡利益金額は零であり、これに対する法人税額が八一万三九〇〇円である旨の虚偽の内容の法人税確定申告書(平成元年押第六〇九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六六一八万八五〇〇円と右申告税額との差額六五三七万四六〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告会社代表者及び被告人の当公判廷における供述
一 被告会社代表者及び被告人の検察官に対する供述調書四通
一 河野正曻の検察官に対する供述調書謄本三通
一 検察事務官作成の捜査報告書四通
一 収税官吏作成の領置てん末書
一 登記官吏作成の商業登記簿謄本
一 押収してある法人税の確定申告書一袋(平成元年押第六〇九号の1)
(法令の適用)
被告会社の判示所為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用し、その所定金額の範囲内で被告会社を罰金一七〇〇万円に処する。
被告人小山田の判示所為は、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期の範囲内で被告人小山田を懲役八月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、不動産の売買等を業とする被告会社の代表者である被告人小山田が、被告会社の業務に関し、所得を秘匿し、虚偽過少申告により六五三七万円余の法人税を免れたという事案であるが、そのほ脱額は多額で、ほ脱率も九八・七七パーセントに上ること、犯行の動機に特段同情の余地がないこと、所得秘匿の態様も計画的で悪質であること等の事情にかんがみると、被告人らの刑責を軽く評価することはできない。もっとも、本件においては、被告人らが本件犯行を全面的に認め、反省の態度を示していること、ほ脱にかかる税額につき、修正申告がなされ、本税の大部分を納付していること、被告会社には前科はなく、被告人には昭和二九年に賍物故買・寄蔵罪による懲役四月、三年間執行猶予及び罰金二万円に処せられた前科はあるが、その後は前科、前歴がないこと、その他被告人の年齢、経歴等被告人らのため有利に斟酌すべき情状もある。
以上のような本件の動機、態様、結果、犯行後の状況、被告人の年齢、経歴等の諸般の情状を総合考慮すると、被告会社に対しては主文掲記の罰金刑に、被告人小山田に対しては主文掲記の懲役刑に、それぞれ処するのが相当であり、なお、被告人小山田に対しては、前記の情状に照らし、今回は自力更生を期して右刑の執行を猶予することとした。
(求刑 被告会社につき罰金二〇〇〇万円、被告人小山田につき懲役八月)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲田輝明)
別紙1
修正損益計算書
自 昭和60年4月22日
至 昭和60年12月31日
紀宝地所有限会社
<省略>
別紙2
脱税額計算書
自 昭和60年4月22日
至 昭和60年12月31日
紀宝地所有限会社
<省略>